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趣味の呟き

【ブータン旅行記】2 衣、食、移動

引き続きガイドさん(28)、運転手さん(36)が登場します。

 


◆「ゴ」と「キラ」

ブータンには今でも多くの人が日常的に着ている民族衣装「ゴ」(男性用)と「キラ」(女性用)がある。

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どちらも日本の着物に良く似ていて、着方は大体察しがつくだろう。
ゴは懐に死ぬほどものが入るので、「世界一大きなポケット」とブータンの人は自慢している。

街では洋服を着ている人もたくさん見かける。
ゴやキラは特に仕事や寺院参拝など改まった場で着るようで、休みの日はおもいおもいに洋服を楽しむのが若者流らしい。
ガイドさんによれば、洋服はユニクロが大人気だという。
ただし高い関税がかかるため手を出しにくいハイブランド扱いなんだそう。

 

とはいえ、ゴやキラを着ている人は靴下や靴、帽子やジャケットなど現代的な小物を足してオシャレに着こなしている。

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女性ならヘアダイ、マニキュア、お化粧はごく当たり前。すっぴんもいるけど結構ケバい人もいる。
男性も髪を染めたりツーブロックにしたり、整髪料できちんと整えている人がほとんどだ。
どの年代の人も清潔感があるのがすごい。

中でもオシャレ上級者…!と感動したのは、明るい茶髪にゴからタイツ、ブーツまで黒で統一したモード系の男性だ。
全然民族衣装を思わせない着方なのに、ゴの膝丈スカートのようなシルエットが、細身の体型も相まって、新しいファッションかと思った。
民族衣装のポテンシャルは高い。

 

なにより、直射日光の強い高地の日焼けした肌に、ゴやキラの原色がとってもよく映える。
田舎臭くてもよし、ハイファッション風でもよし。
生地の柄を見ているだけでも結構楽しめる。

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でも市民を隠し撮りするのも悪いと思って、あんまり写真を撮らなかったのが残念だ。(という理由もあってイラスト)

 


◆農業国を味わう

ブータン飯は「激辛料理」と聞いてちょっと身構えていたが、ほとんどの料理は優しい味付けだ。
トウガラシがメインの料理以外は、むしろ素材の味を生かした野菜炒めとかカレーとかが多かった。
そもそも酪農業が主要産業の国。野菜は無農薬で滋味深い。
外国の野菜って解凍したようなしなしなパサパサの印象があるけど、ブータンのは味が濃くて歯ごたえがあって美味しかった。

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主食は主に赤米、次点でソバなど麺類、ナンやパンケーキがよく出てきた。
ホテルでも一般家庭でも何種類かおかずを用意し、お腹いっぱいになるまで食べる。
ということでお気に入りのおかずを紹介したい。

 

エマ・ダツィ

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トウガラシ(エマ)をカッテージチーズ(ダツィ)で和えたもの。
いつでもどこでも出てくる常備菜だけど、ピリ辛かつ濃厚で本当に美味い。
というかビールを飲むために作られたとしか思えない逸品。
旅行中は機内食含め朝以外はほぼ毎食ビールを飲んでいたが、このエマ・ダツィはアテとして最の高だった。
たまにボーナスでインゲン豆が入っているエマ・ダツィもある。

 

ただ、その辛さは万願寺唐辛子のようなマイルドなものから地獄みたいなものまで、どれくらいのものかは食べてみなければ分からない。
一度激痛を伴う辛さのエマ・ダツィに当たってしまい、頑張って食べたらお腹を下してしまった。
そんな時のために「ストッパ下痢止め」を持って行っていたので、異変を感じた瞬間にすかさず飲んだが、ダメだった。
そしてガイドさんは見越したかのように、「エマは3度痛くなります。食べる時に口が、次に胃が、最後にお尻が」と言い残していった。


★ジャガイモ

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料理といっていいのか、フライドポテトも美味しかった。
ブータンでは稲や麦の収穫が終わると田んぼでジャガイモを作るという。
フォブジカ谷という谷間の斜面一面にジャガイモ畑が広がっている土地で食べたものは、外はカリッと中はホクホクの絶品で感動した。

 

しかもジャガイモはビールに合うだけでなく、エマ・ダツィや他の料理が辛くて食べられない時の切り札としても重宝した。
外国でご飯に困ったらみんなとりあえずマクドナルド行ってLポテトを貪ったりするじゃないですか。
やっぱりジャガイモは裏切らないんですよ。
むしろジャガイモさえあれば生きていけると思わせてくれた。
というかブータンでは世界的に安パイのジャガイモが上位打線に入ってる時点でいかに素朴な感動を味わったかお分りいただきたい。

 

★精進酢豚風野菜炒め

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料理名はよく分からないが、玉ねぎ、トマト、人参と、肉に見立てたナスやマッシュルームを甘酸っぱく炒めた料理をちょくちょくいただいた。

味は酢豚に近いのだが、肝となる肉風の野菜が画期的に美味しかった。


ナスもマッシュルームも衣をつけて揚げてから他の具材と炒められているが、揚げ方がいいのか一瞬野菜と分からないくらいジューシー。
特にナスは衣がサクサク、噛むとふわふわ食感の後にトロッと溶ける奇跡が起きていたので全くナスを想起できなかった。
悩んだ挙句店員さんに野菜の正体を尋ねたら「eggplant(ナス)」と言われ、でもボキャ貧過ぎてエッグプラントの意味が分からず、食べ終わるまでブータンでのみ取れる卵のような形をした珍種の野菜だと思い込んでいた。
頭が良くなるといいな。

 

ブータン産ビール「DRUK(ドゥク)」シリーズ
体調が悪くてもビールは飲む人種の父と私は常にこのドゥクビールを飲んでいた。
英語があまり話せないはずの父はbeerの発音だけ極端に良かった。
ちなみにDRUKは龍の意味で、食品メーカーの屋号。龍の国ブータンですからね。

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DRUK1100(赤ラベル)…アルコール度数8%とやや強いビールだがあっさりしている。サッポロビールのような飲みやすさ。飲んだ感じ絶対8%もない。

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DRUK LAGER(青ラベル)…アルコール度数5%。赤ラベルよりもやや酸味があり第3のビールよりの爽やかさ。

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DRUK SUPREME…第3のビール。パロの雑貨店で600ml65ニュルタム(120円くらい)で買えた。登山の後に飲んだので無条件で美味しかった。


★アラ(焼酎)

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焼酎を注いでくれた娘さん

パロで民家泊をさせてもらった時、その家で作っている自家製焼酎を分けてもらった。
その前日にティンプーで「酒を飲み過ぎてベロベロになる男と、まあ人生一度だし楽しめばいいかと酒を勧める女」という物語の素晴らしい民族舞踊を鑑賞していた父と私は、この庶民の酒に並々ならぬ期待を抱いていた。

 

で、いざ飲んでみると想像以上に美味しい…。
一体原料は何なのか聞けずに終わってしまったが、酸味が少しあるけど口当たりがとても良くてするする飲める。
蒸留酒だが多分アルコール度数は15%くらいの、軽い印象だった。
美味い美味いとぐびぐび飲んで多分二人で1リットル弱飲んだ気がする。(途中酒筒交換があった)
味もさることながらこの焼酎の凄いところは、全く二日酔いをしなかったことである。


酒好きは数々の酒の失敗から、良い酒は値段も高いが体の負担も少ないことを経験的に知っている。
この家庭で一体どんな蒸留の仕方をしているのか…。ブータンの底知れぬ酒造りの技量を感じた。


★バター茶

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おやつ感覚で飲む、酪農も盛んな国らしい「バター茶」というのがある。
バターを溶かし塩を入れて煮て、飲むときは煎り玄米をかけて飲む。
玄米の香ばしさとバターのコクがよく合うハイカロリーでオシャレなドリンクなんだけど、ガイドさんは煎り玄米をシリアルを食べるかのごとくこんもりとバター茶に放り込んでいた。
それはもはや食べ物では。

 

 

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ブータンの人は本当によく食べる。
小柄で細身のガイドさんも赤米メガ盛りおかず大盛りをペロッと平らげていた。
外国人にはカトラリーが出されるが、基本的には手で食べるのが習慣だという。
民家泊でガイドさん、運転手さんと一緒に夕食を食べたときにウォッチしていたが、赤米とおかずを一緒に手で軽く握ってオニギリにしてポイポイと口に入れていた。
そして食べ終わったら、ウエットティッシュを手のひらで転がして汚れを巻き取り、ストーブの薪を小さく削いで爪楊枝にしていた。
一連の所作がワイルドでいながら汚さがなく、妙に完成されていて惚れ惚れしてしまった。
日本人でも茶碗に米つぶ残す系の人が微妙に好きになれないので、やはり終始キレイな食べ方をするって大事だな…。


◆車好きの雑談

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ブータンでの移動手段は飛行機か車に限られる。
渓谷続きの国なので電車はなく、首都ティンプーがある西部地方はまだ道路も整備されているが、中部や東部に行くと車が入れず馬とかロバとかでしか行けない道も多いという。
とはいえ、おおむねバスか自家用車が市民の足だ。

ブータンの道を走る車は日本車、ヒュンダイ、タタやマヒンドラのインド車が多い。
日本車では隣国インドでスズキの合弁会社が工場を持っているので、スズキ車、特にアルトをたくさん見た。
日本でアルトと言えば可愛い軽だけど、ブータンでは坂道やオフロードでゴリゴリと勇ましい走りを見せていた。

 

我々一行はたまたま割り振られたヒュンダイのワゴン車を使っていたが、より格が高いのはハイエーストヨタ)らしい。
道中超絶技巧で険しい道路を走破してくれた運転手さんに、乗ってみたい車種を聞いても「ハイエース!」。
ハイエースブータン中を快適ドライブ旅行してみたいんだって。いい趣味ですね。
一方、スポーツカーが好きなガイドさんはホンダとか速そうな車に乗ってみたいらしい。
一度観光地の駐車場で一緒に車見物をしていた時、真っ赤な新型シビックが停めてあって、ピカピカの純正ホイールとかを見ながら「超いい〜」と盛り上がった。
趣味に国境はない。私はスバリストなので、雪道坂道に強い四駆代表としてスバル車もオススメしておいた。

 

ベンツやBMWなど外車はほとんど見なかったが、ガイドさんが5代目ワンチュク国王の公用車はレクサス、眞子さまブータン訪問した際の送迎車はBMW…などトリビアを教えてくれ、高級車はなおも高級車だった。

 

◆インディアントラック

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ファニーフェイスのタタトラ。呪いっぽくあしらわれた三角板がオシャレ。

ところで、道路や建物の建設工事現場などで見るトラック類のほとんどはタタやアイシャーなどのインド車だ。
特にヘッドライト上に目が描いてあるタタのデコトラと初めてすれ違ったときは、思わず笑かしにきてるのかと思った。
が、事情はちょっと複雑だ。

 

発展途上国であるブータンは、道路整備や橋梁建設などのインフラ整備を隣国であり大国のインドに大きく頼っている。
特に道路工事は多くのインド人が出稼ぎに来ており、だからインドトラックが多い。(なので日本が担当する現場には日野やいすゞがある)
ブータンの道路は西部の主要都市部はまだしも、他は未整備なところが多く、崖法面の土留めも怪しいところが多い。
雨季に起こったと見られる土砂崩れが残されたままの箇所がたくさんある。

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あの岩転がってきたら死ぬなあ

 

道路を通行中、工事現場を眺めながら「ブータンの人が混じって働いている様子じゃないですね」と言うと、ガイドさんは「良くない傾向だけど、ブータンの若い人は仕事を選ぶんです」と話していた。
いわゆる3Kみたいな仕事よりもホワイトカラーで楽に働きたいが、かといって相応の知識や能力もない若い人が多い…と若いガイドさんが嘆いていた。
実際のところ、インドが担う工事だからブータン人が入らない(入れない)だけなのかどうかは分からないが、その口ぶりには少なからずインドへの微妙な心境が見えた。

 

首都ティンプーの東にある、ヒマラヤ山脈が見渡せるドチュラ峠で休憩した時、ガイドさんが思い出話をしてくれた。

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ドチュラ峠からは冠雪してるヒマラヤ山脈が見える
2003年にブータンとインドは、ブータン南部と国境を接するインド・アッサム州の独立を訴えるゲリラ組織がブータン領土内に拠点を持ったことをめぐり、武力衝突した。
その数年前からゲリラ組織はインド政府との衝突でブータン側のジャングルに逃げ込んでいて、これに対しブータン政府は退去するよう訴え続けていた。
しかし事態は膠着し、インド政府がこれ以上ゲリラ組織を「擁護」するようなら軍隊を派遣して掃討すると宣戦布告。止むを得ずブータン政府は軍隊を出してゲリラ組織を追い出した。
その際ブータン軍でも死者が出ており、殺生を禁じるブータンは大きな負の歴史を抱えることになった。

 

ドチュラ峠には、その戦死者を弔うお堂が建てられている。

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ドチュラ峠にある仏塔

 

「あの時は学校で毎日戦争が終わるようにみんなと祈っていました。」
ガイドさんは2003年当時まだ高校生だった。
戦争に勝ったことよりも戦争をして死者が出てしまったこと、平和を乱してしまったことの方が重大な問題で、ガイドさんたちはドチュラ峠の仏塔でお祈りをするとき、死者の冥福と世界平和を祈るという。
信仰心があるから冷静に達観できるのか、それでもその戦争はインドの内紛が飛び火したために発生したものだったはずだ。
この小さな国が大国と渡り合う厳しさを突きつけられたブータンの人にとって、経済援助されているとはいえ友好的になるのはどんなにハードルがあるだろう。

 

そうした歴史に加えて、インドはスリや詐欺など犯罪が多いく信用できない国という印象があるという。
ビザなしでブータンに入国できるインド人は気軽に観光に来ているが、返って小さな不愉快を日常的に積み重ねているようでもあった。


反対に日本に対しては、農業支援をした西岡京治さんの貢献が良く知られ、さらに工事の質も諸外国に比べいいとか、そもそも日本人の穏やかな感覚に親近感があるとかで、基本的にとても親切だ。
日本人(特に女性)と結婚するブータン人も多いらしい。
2011年に新婚のワンチュク国王夫妻が来日したのを機にブータンに旅行する日本人も増えたが、人口比で見ても全体で日本人旅行者が占める割合は決して多いわけではない。
なのに一定数のガイドさんたちが習得しにくい日本語をわざわざ学んでいるのは、純粋に日本が好きだからだと思う。(もちろんインセンティブもあるけど)
そしてその「好き」の一側面は、こうした隣国への感情の裏返しなのかもしれない。
チベットや国境の問題、マナーや考え方の違いから中国人ともいい関係とは言えないからだ。

 

ちなみにブータン人は台湾人と結婚する人もそこそこいるらしく、なるほど類は友を呼ぶのだろうか。


◆インド産「ロイヤルエンフィールド」

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話を車に戻すと、ブータンのバイクも楽しく拝見した。
飛行機の経由地バンコクでは50ccくらいのスクーターが大半だったのに対して、悪路や坂道の多いブータンでは400cc前後の中・大型バイクがほとんどだった。
しかも4輪と打って変わって、羨ましいことに日本では高級外車のロイヤルエンフィールドが多い。
ただしこれも例に漏れず、現在ロイヤルエンフィールドはイギリスではなくインドが本社なので自然な光景なのだ。
でもどんなバイクでも、ブータンの伝統的な風景に良くあっていた。

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もちろん日本産のバイクもたくさん見かけたが、ブータンの白バイにも採用されているカワサキ・バジャジ(インド)の「pulsar」は目撃率が高かった。

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白バイのpulsar
穏やかなブータン人だけど、スポーツタイプで颯爽と走りたいとか、冒険心を持っているんだろう。
渓谷を山沿いに緩いカーブが続く道が多いので、ゆるいツーリングが楽しめそう。
ドチュラ峠のカフェで休憩する渋いライダーも何人か見かけた。
この峠でヒマラヤ山脈を見ながらツーリングとか、いいね!ボタンがあれば絶対10万回押している。

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YAMAHAを盆栽するおじさん。よく乗るの?と聞いたら「時々ね」。
街の道端では一緒に整備するカップルや、愛馬を眺めるオヤジなどもいて、言葉が自由に話せたら色々と話してみたかった。


あと、ティンプーでゴを来てバイクに乗るツワモノライダーを目撃した。

最高にcoolだった。

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(続く)