【上海生活】出会い系で出会ってみる。
3月末くらいに、日本人留学生の友人たちと飲んでいたら、そのうちの一人が会話の練習のために出会い系アプリに登録したという話をしていた。
日本でおなじみの出会い系アプリ「Tinder」とまるっきり仕様が同じ、「探探(タンタン)」というアプリだという。
使い方は、自分が設定した距離圏内にいる人の写真が現れるので、好みなら写真を右にスワイプ、イマイチなら左にスワイプしていく。
自分が右スワイプした人が、自分のことも右スワイプしてくれていたら晴れてマッチング成立、チャットができるようになる。
Tinderも探探も基本的にはセフレ探しのツールだ。
で、その友人も早速現地民とマッチングしてチャットをし始め、翻訳アプリを駆使しながらチャットを頑張っているという。
私とほかの友人もその場でインストールして、目の前にいる友人を右スワイプして遊んでいた。
その日は冗談半分で終了したのだが、後日改めてアプリを開いてみた。
というのも、そもそもTinderには地域格差を思い知らされた経験があるからだ。
日本で仕事をしていた頃私は人口10万人に満たない街に住んでいたが、その頃首都圏に住む友人にTinderを教えてもらい興味本位で使ったことがある。
しかし少子高齢化かつ過疎化が著しい街ではそもそも登録者数が少なく、画面に現れる人は100キロ近く離れた県庁所在地に住む若者ばかりだった。
県内外から人が集まる大型イベントがあるとそれなりにスワイプもできるのだが、イベントが終わるとまた過疎る。
平時のTinderは常に過疎っていた。
よく自治体が交流人口の拡大を政策目標にうたったりするが、この時ばかりは大いにやってくれと思った。
で、今自分は東京よりはるかに人口の多い上海にいる。スワイプできないわけがない。
事実、探探にはアホほどメンズが現れた。
金しか持ってなさそうなパパ活にもってこいのおじさんもいれば、女子ばりに美肌デカ目修正している男の子もいる。モデルか俳優か?と思うようなイケメンは多分サクラだ。
スワイプすればするほど色とりどりの男性が出てくるので面白くなって数日(主に左)スワイプしまくっていた。
時には美人なお姉さんとマッチングしてひたすら容姿を褒めたたえたりもした。
その中で、とある男の子とマッチングした。
その子の写真にはスズキのバイクが写っていて、原チャが一般的で250cc以上のバイクをほとんど見ない中国では貴重なライダーに思えた。
チャット画面で「なんのバイクに乗ってるの?」と中国語で聞くと、なんと日本語で「スズキの〇〇」と返事が返ってきた。
彼は以前日本語を勉強したことがあるらしく、日本語と中国語でバイクやらなんやらの話をしてちょっと盛り上がった。
その後WeChatに移行し、2週間ほど雑談を続けた。
私は基本的に冗談しか言わないが、笑いが通じるらしく向こうも楽しんでくれてるように見えた。
彼の返信には時々ネットスラング(日本でいう「草」的な)が入っていて読解に時間がかかるが、私が中国語初心者であることを踏まえて気長に付き合ってくれる。
私が体調不良とか、携帯がトラブってるとか、友達と飲んでて返信しなかったとか、なにかと「大丈夫?」「こういう解決策があるよ」「気をつけて帰ってね」など親切に語りかけてくれる。
かと言ってその間実際に出会おうというお誘いはあまりなく、お互いいつか会えたらいいねと言っていた。
私は出会い系でセフレや恋人を探したことも、探し当てたこともないので、果たしてこの男の子の真意がなんなのかは見当もつかない。
が、仮にヤリモクだったとしても数週間意味不明の中国語で話しかけてくる日本人と雑談を続けるのは結構根気強い人だと思う。
私も「会って一発やるくらいならいいかな~」と絆されかけていたところでちょうど「今度会おうよ」というお誘いが来たので快諾した。
しかし興味津々とはいえ、実際に会うとなると恥ずかしながら処女の如く警戒心が働く。
日本でもマッチングアプリで外国人に会いに行った女の子が殺される事件があったばかりなので、「生きて帰る」を目標に会うことにした。
幸い、事前に雑談などから彼の本名等々概ね確度の高い個人情報を把握していた。
日本にいる家族に「私が音信不通になったらこれを警察に通してくれ」と彼の素性ファイル を丸投げした。
またありがたいことに友人が一人一緒についてきてくれる流れになったので、彼女にも同様に伝えた。
ここまで準備してもなお、基本引きこもりな性分のせいで当日はめちゃくちゃ気が重かった。
「一発やってもいい」と思っていた自分はなんか汚い空気を吸いすぎて頭がおかしかったのかなと後悔した。
しかも大事な友人まで巻き込んでいる。
しかし一緒に来た友人も似た性格なので、2人してバスでグタグダしていたら降りるバス停を間違えて待ち合わせの時間に遅刻した。
「申し訳ない」と彼に詫びメールを送りつつ待ち合わせ場所近くまで行くと、彼とおぼしき男性がいる。
道路の反対側からメッセージを送ってみるとその男性がスマホをスイスイしている。間違いない。
もうここまで来たら自分の股の穴を差し出してでも友達を生きて返そう…と腹をくくり、ようやく彼に声をかけて店に入ったのだった。
(三十路にしてこの警戒心の強さは小心者なのが半分、もう半分はこの世代はあんまり匿名社会のネットを信用してないからだと思う)
実際、彼は日本語が相当できて、我々の指差し中国語会話の出る幕はなかった。
彼はチャットしていた時から「内気な性格で…」などと自己紹介していたが、物腰の柔らかい、歯並びのいい笑顔が印象的な青年がそこにいた。
私と友人は彼の話に耳を傾けつつ、日頃気になっている中国語の質問をしたり、普段の生活の話をしたり、割とくつろいでおしゃべりした。
中国式のお酒の飲み方も教えてもらい、白酒を飲み交わして宴会した。
つまり、結構楽しかった。
その後、一度現物と会っただけあって連絡頻度は流石に落ちた。
でも友人が尋ねていた中国語の質問に後日律儀に回答を寄越してくれたり、私が「一度家庭料理の餃子を食べてみたい」と話したのを覚えてくれていて彼の母上お手製の餃子をバイクに乗って出前の如く届けてくれたりと、相変わらず親切だ。
彼のおふくろの味の餃子はちょっと濃いめの醬油味が効いた餡で、何もつけなくてもものすごく美味しかった。
今でも時々チャットで会話しているが、彼は多少人たらし(人好き?)なところはあるものの根本的に良い人疑惑が拭えない。
私も彼が笑ってくれるネタは何だろう、中国語でどう言えば良いんだろうと二重に悩みながらまだ冗談を言い続けている。
彼は一度仕事で接した日本人を評して「日本人は本音を言わない」とぼやいていたことがある。
そう言われたときは他人事のように「確かに~」と思ったけど、今はなんとなく心に刺さるものがある。
いつも冗談ばかり言ってごめんね、あと個人情報調べまくってて普通に考えたら気持ち悪いね、と少し後ろめたい。
自他共に認める「こじらせ系」の私は、出会い系で出会ったところでそこからの付き合い方なんて全く分からない。
なんなら出会い系じゃなくてリアルな紹介で出会っても同じ悩みを抱えている気がする。
いつか彼が私を友人と呼んでくれる日は来るんだろうか。
趣味の合う人だけに仲良くなれたらいいなと思うけど、語感も分からない言葉の距離は到底推し量れない。
でも機会があれば「そのバイクに乗って、どこまで行ってみたい?」と聞いてみたい。
必ずしも自由にバイクが乗れないこの国で、この男の子はきっと私と同じ自由の快感を知っているんだろう。
ちなみに探探もTinderも、みんな同じ顔に見えてきて飽きたので、既にアカウントは消してしまった。
中国ではTinderは欧米系外国人か欧米に留学などしたことある越境中国人が大半で、探探よりもハイソサエティな感じだった。
パパ活したい女子大生はTinderがオススメらしいです。